仙台高等裁判所 昭和30年(ラ)69号 決定 1956年2月23日
抗告人 山口新平
訴訟代理人 鈴木右平
主文
原決定を取消す。
本件を山形地方裁判所に差戻す。
理由
本件抗告理由は末尾添付別紙記載のとおりである。
よつて按ずるに、記録に徴すれば、相手方(原告)と抗告人(被告)間の山形地方裁判所昭和三十年(ワ)第九九号家屋明渡請求事件について同年九月二十九日成立した和解につき抗告人は「合意廃罷」乃至抗告人のした「解除」によつて和解が解消に帰したとなし、或は和解自体その成立過程の瑕疵により無効なりとして同年十二月二十日右訴訟につき新期日の指定申立をしたことは明らかなところである。而して斯様な趣旨の期日指定の申立があつたときは、受訴裁判所はこれを拒否するを得ず当然期日を指定して審理を遂げ当該訴訟が和解によつて終了したか否を終局判決を以て判断すべき義務があると解すべきところ、他方右期日指定とこれに伴う審理が行われても係争の和解調書に基く強制執行が当然に停止されるいわれがないから債務者救済の観点からすれば、これが一時停止の方途を見出さなければならないのであるが民事訴訟法上準拠すべき明らかな規定がないから考えるに、もともと右期日指定の申立は、確定判決に対しその訴訟手続又は判断資料における重大な瑕疵や欠陥を主張してその判決の取消とこれによつて終了した訴訟の復活を求める再審の申立と相似たものがあることに鑑み、民事訴訟法第五百条を類推適用して右執行の停止を許すことが相当であると思考される。
従つてこれと異る趣旨に出た原判決を取消すべきものとし、なお本件は執行停止の条件等につき本案訴訟の係属する原審をしてこれを審理の上決定せしむるを相当と思料するから本件を山形地方裁判所に差戻すべきものとする。
よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条、第三百八十九条に則り主文のとおり決定する。
(裁判長判事 板垣市太郎 判事 檀崎喜作 判事 沼尻芳孝)
抗告の理由
一、抗告人は山形地方裁判所に提出した停止決定申立書に記載した如く「和解」自体が解消し従つて本案訴訟は未だ終つていないものと解しておる。
二、右に関連して抗告人は御庁に対し本案の山形地方裁判所昭和三十年(ワ)第九九号事件について期日指定を申立した処山形地方裁判所は右申立に対し右期日を昭和三十一年一月三十一日と指定告知した。
三、以上の次第で本案が繋争中であるのに執行を許すとせば本案訴訟の意味が何辺にあるか、若しそれ本案に於て抗告人が勝訴の判決を得たとせば、これこそ抗告人の権利が回復しないこと「ふく水盆に帰らず」である。
四、尚法律論としても裁判上の和解は再審と同様に取扱うべきであること学説判例の等しく認めている処である。(神谷健夫著 民事訴訟法原論上訴以下強制執行一七六頁参照)然る限り、本件の「停止決定」を為すことも何等違法不当でない。返つて現在年末年始にもあたり、普通とは異にする日時であり又本人が病気している実情に於てはこれこそ「必要以上に弱いものいじめ」の執行と謂わざるを得ぬ。
尚又法曹会議に於ても本件の如き場合には「停止決定を許す」と之を認容している処をも考え合せば原審決定はどうしても不都合であり取消さるべきものと解する。(新民事訴訟法学説判例総覧強制執行編上巻一一四頁著者寺沢音一)